北辰一刀流は創始以来、 生死をかけた戦いに勝利する剣士を作り出すべく、兵法を継承しています。
- 剣術: 剣術は、刀や脇差(わきざし)で戦う武術です。現代の剣道のようなポイント獲得制のスポーツではないため、特定の部位のみを打突することはありません。剣術は、剣士の技術、精神、戦略を鍛錬することで、鎧の有無に関わらず真剣で相手を倒すことを学びます。現代の剣道とは対照的に、剣術は全身を標的とし、その中でも特に鎧の弱点を狙います。北辰一刀流の稽古は、初め木刀と竹刀で行い、後に真剣(刃引きではない)で行います。
- 抜刀術: 抜刀術は刀を使った武術です。戦ではなく、主に武士の日常生活の自衛と暗殺目的で使用されました。この技は、無防備な状態で計画的に奇襲された場合、または刀を抜く前に攻撃された場合の防御として使用することができます。北辰一刀流の抜刀術は初めから真剣で教授されます。
- 長(薙)刀術: 日本の長柄武器である長刀を使用する武術です。長刀は、槍(やり)と共に、戦でたたかう侍の主要な武器でした。 長刀は、曲線の片刃と木製の棒で構成されています。一つの武器で槍、刀、棒の技法を組み合わせることができる長刀は、封建時代の戦で最も柔軟で効果的な武器の一つでした。
- 柔術: 柔術は、突き技、打ち技、投げ技、関節技、蹴り技から成る、武装または非武装の相手を倒すための接近戦の武術です。 戦の最中、敵に近づきすぎた場合の技であり、また、非武装の場合にも使用できます。
すべての古流武術と同様に、こうした術は型と呼ばれる形で師から弟子へ継承されています。弟子は安全な環境で怪我なく、それぞれの技が型として磨かれるまで、深く慎重に学ばなければなりません。すべての動きを自分のものにするまで何度も何度も稽古し、完璧に技を体得することで、必要な場面で的確に動くことができるようになります。
北辰一刀流の型は、表の型と裏の型(秘伝の型)で構成されています。北辰一刀流の表の型は百八十二あり、千葉道場の道場目録に公開されています。表の型には、剣術、抜刀術、薙刀術の型がすべて含まれます。柔術の型、また特定の剣術と抜刀術の型や居合術の型は、表の型に含まれない特殊な技と共に、流派の裏の稽古で学びます。この技は、献身的に学ぶ弟子にのみ伝えられ、表立って公開されていません。下記の表は、北辰一刀流の百八十二の表の型をすべて表しています。
撃剣(げきけん)
北辰一刀流の基本的な技や動きを学んだ後、その技を完全に体得するため、弟子は撃剣でその戦術と技を学ぶ必要があります。撃剣は、伝統的な古流武術で行われている竹刀稽古です。防具と竹刀で通常行われますが、あくまで生死をかけた真剣を使った戦いに勝つための訓練の手段として行なわれます。北辰一刀流の撃剣の稽古は、剣術に限らず、抜刀術、綱刀術、柔術の稽古も含まれます。 この厳しい訓練を通して剣士は、技を磨くだけでなく、武士道に基づいて心身を鍛錬し、人格形成を目指します。
剣道は、1920年代に創始された際に防具と竹刀の使用を定めました。北辰一刀流、神道無念流、鏡新明智流、心形刀流など多くの撃剣の流派は、剣道の創始に多大な影響を与えました。そのため、剣道の技は一見して上記の流派に似ています。 しかし、よく見ると、撃剣は現代の剣道とは、その技と精神が大きく異なっています。
北辰一刀流の撃剣稽古は、四つの段階で構成されています。
- その一、型稽古: 第一段階では、師から学んだ技を試します。剣士は防具を着用し、竹刀を用いて、全力で組太刀型稽古を行います。
- その二、打込稽古: 第二段階では、打込稽古が教授されます。打太刀(攻撃する剣士)は防御せずひたすら攻撃し、仕太刀(攻撃を受ける剣士)は型稽古で習得した技を使って、相手からの様々な攻撃から身を守り、戦略的に戦うことを学びます。この稽古はその昔、まだ未熟な剣士が、訓練された剣の達人と戦わなければならなかった際に有効でした。 そのため、打込稽古は生き残りをかけた激しい戦いに勝利する技を学ぶ上で非常に重要です。打込稽古では、組打技も教授されます。組打とは、剣術と柔術をあわせた技です。
- その三、試合稽古: 第三段階では、北辰一刀流の試合稽古が教授されます。現代の剣道との明確な違いは防具の使い方です。撃剣での防具は、あくまで怪我から弟子を守るために着用するものであり、全身が有効な標的とみなされます。しかし、剣道は防具の特定の部分のみを有効打突部としています。高いレベルの撃剣の試合稽古では、防具を着用せず、竹刀や木刀で完全に打突します。もとより、余裕をもった怪我のない稽古をするため、弟子は武器を操るのに十分なコントロール力と高い技術力を磨かなければなりません。北辰一刀流の試合稽古では、複数の剣士に対する戦術や、他の剣士と共にグループで戦うための戦術も教授されます。
- その四、真剣勝負: 北辰一刀流、最高段階の撃剣稽古は、真剣勝負と呼ばれています。真剣勝負は、流派の二人の師範が真剣で行います。腕前を披露するため、打突は寸止で行われます。こうした非常に危険な稽古は、高い技術と精神力が求められます。
礼法と哲学
北辰一刀流の稽古では、兵法と戦術に加え、礼法と哲学も教授されます。礼法は、封建時代の慣習に従った立ち振る舞いを学びます。例えば、相手や状況に応じた、いろいろなお辞儀の方法は大小(大刀と脇差)の正しい使い方と共に教授されます。また、武士の階級に応じた、戦や日常生活の中での正確かつ丁寧な礼儀作法や立ち振る舞いも礼法の一部です。
一方、哲学は戦と日常生活とのつながりの中で侍を倫理的に教育しました。北辰一刀流を学ぶ上で最も重要な教えは、殺人剣(さつじんけん)と活人剣(かつじんけん)、即ち命を奪う剣と命を守る剣の教えです。双方の教えは、流派の極意とその技術に深く根ざしています。また、儒教、神道、仏教を基にした多くの哲学的な教えも教授されます。
北辰一刀流は、兵法、礼法、哲学すべての側面を組み合わせることで、無敵の心身をもつ侍を作り出すという目的があります。